“よい靴”が連れていってくれた韓国・ソウルの革靴セレクトショップ
“よい靴はよい場所へ連れていってくれる”――ヨーロッパに伝わることわざだ。そして革靴好きの僕はこのことわざを呪文のように唱えて、「また同じようなものを買ったの?」「それいくら?」という刺すような妻子の視線をかわしつつ、コレクションを増やしていっている。
5月末に取材で韓国を訪れた。そして例の呪文が発動する。“よい靴はよい場所へ連れていってくれる”。1泊2日の短期滞在だったが、社長インタビューやパーティーの予定もあり、加えてどれくらい歩くのか?道の状況は?など分からない部分も多かったので、個人的になじみ深いブランドの、フォーマルにもカジュアルにも対応する1足を選んだ。それが「パラブーツ(PARABOOT)」の“アヴィニョン(AVIGNON)”だ。色は汎用性の高いブラックにした。
Uチップシューズは通常カジュアル靴の部類に入るが、“アヴィニョン”はノーズが長くすっきりとしたデザインのためジャケットやスーツとも相性がいい。ソールは完全自社生産の100%天然ラテックス製で、ギザギザのパターンにすることでグリップ力を高めている。つまり海外での突然の雨などにもしっかり対応してくれる、というわけだ。
さて「パラブーツ」の日本の正規代理店であるアール・ピー・ジェー(RPJ)の横瀬翔吾常務に、「ソウルに行くなら、ぜひ寄っておくべきショップがある」と推されたのがユニペア(UNIPAIR)だった。同店は、2008年に韓国初のインポートシューズ専門のセレクトショップとして、“韓国の表参道”ともいえる狎鴎亭(アックジョンドン)にオープンした。店舗面積は約165平方メートルで、ウッドを基調とした店内にカン・ジェヨン(Kang Jaeyoung)=ユニペア社長が、自らイタリアで買い付けてきたアンティーク家具が並ぶ。
「ユニペアをオープンした10年前、韓国にはソールを替えることで長く履くグッドイヤーウェルト靴の文化がなかった」とカン社長。さらに「店名には“あなたのために世界にひと組だけの靴を紹介する”という意味を込めた。革靴の価値と文化、それが日常を豊かにしてくれることを伝えている」と続けた。
ユニペアは、米国の「オールデン(ALDEN)」や英国の「エドワード・グリーン(EDWARD GREEN)」を並べるプレステージゾーン、靴以外にバッグやポケットチーフ、ネクタイ、靴下などをディスプレーする「応接間をイメージした」(カン社長)ゾーン、オリジナルブランドの「ユニペア」やウィメンズシューズ、靴の修理や磨きを行う日本発のリッシュのショップインショップがあるゾーンの3つに分かれている。
ほかにもユニペアは、「ジョンロブ(JOHN LOBB)」「トリッカーズ(TRICKER’S)」「カルミナ(CARMINA)」「アルフレッド サージェント(ALFRED SARGENT)」「ジャラン スリウァヤ(JALAN SRIWIJAYA)」など約10ブランドをラインアップする。人気ナンバーワンは「パラブーツ」で、日本同様“シャンボード”と“ミカエル”が売れているという。韓国は革靴に関税が掛からないため価格は日本に比べて1~2割ほど安く、“シャンボード”が55万9000ウォン(約5万1000円)、“ミカエル”が52万9000ウォン(約4万9000円)。ちなみにユニペアは、「パラブーツ」と「トリッカーズ」の韓国における正規代理店も務めている。
「オールデン」も人気で約700足をストックし、希少価値の高いコードバン製モデルが110万ウォン(約10万円)〜。ビジネスシューズを中心とするショップはニューヨークにもあるが、一つの店舗でこれだけのカジュアルな「オールデン」をそろえるのは世界にも例がないのでは?と聞くと、「それだけまだ市場が成熟していないということ」と謙遜した。実際は、日本をはじめとする近隣国から“革靴を買うこと”を目的にユニペアを訪れる客も多いという。
オリジナルブランドの「ユニペア」は、「中国製ながら、日本のシェラインターナショナルが運営する『フォーティセカンドロイヤルハイランド(42ND ROYAL HIGHLAND)』が監修しており、一部を手縫いするなどこだわりも随所にある。33万9000ウォン(約3万1000円)を中心に、革靴のエントリーモデルをそろえる」と説明。リッシュについては、「グッドイヤーウェルト靴がなかった韓国には、それを修理できる店もなかった。三浦浩三リッシュ社長が来店してくれたことが縁で、2011年にショップインショップをオープンしてもらった」と振り返る。このショップインショップを皮切りに、現在リッシュは韓国で8店舗を経営する。
“アヴィニョン”が連れていってくれたユニペアという“よい場所”。その世界観にすっかり魅了され、ユニペアでしか買えない別注アイテムに食指も動いたのだが、ここであらためて“よい靴はよい場所へ連れていってくれる”を盾に自分だけの買い物をする勇気はなく、オススメのキムチ店を紹介してもらって、それを土産に妻子にごまをすり、次の機会を虎視眈々と狙うのだった。